ライフスタイルマガジン『くまもとのいえ』と連動した、熊本の家づくり情報を網羅したプラットホームです。
建築家、住宅会社の新築からリフォーム、リノベーションまでさまざまな事例をご紹介。
2021/8/9
くまもとで暮らすぜいたく
最小限空間にして最大限エネルギー魂。 建築の可能性を追求しました。
古き良き日本伝統建築と 高性能が調和した事務所
周囲の住宅地を見守る「塔」のようにそびえ立つ建物は、夜にライトアップされると、よろい壁が美しい陰影を織りなす。熊本地震前まで、昔ながらの木造建築が立ち並んでいた益城町。熊本地震により全壊した事務所の再建にあたって「町の原風景を残したい」との思いから、どこか懐かしくもシンボ リックな木造二階建ての事務所を設計した。
課題は、わずか4坪しかないスペースをどう活かすか。そこで、「木の箱」をコンセプトにあらゆるパー ツを箱形で統一。段差やスリットがもたらす視覚的な効果により、狭さを感じにくくした。また、外 張断熱材、充填断熱材のダブル断 熱材仕様にし、屋根デッキや外壁の杉板などで省エネ化を図り、太 陽光発電も取りいれたゼロエネル ギーの建物とした。
「これからも、依頼主の夢や個性を設計というフィルターを通して具現化したい」と、受賞の喜びを 語ってくれた。
江戸期の展望塔を思わせるシンボリックな事務所
外壁には伝統的な日本家屋に用い られていたよろい壁を採用。扉や窓にもよろい壁の二重扉を設け、扉を閉じると一つの「箱」 に見える
事務 所の入口は、ピンク色の三和土(たたき)に仕上げ、飛石風のアプローチに
屋上デッキが建物のフタとなって直射日光をやわらげてくれる。屋根に設け た明かり取りは室内に明るさをもたらし、外から見ると愛嬌のあるアクセントに
事務所の床 もピンク色の三和土(たたき)仕上げにし、アプローチから続く流れに。古民家の土間を再現 した
おおらかな空間に出迎えられる玄関。所々に抜けを作ることで、室内に居ながら屋外と繋がっているような感覚に
▶設計のポイント
幅わずか 1.9m に対して最適な黄金比となる建物 の高さや各階の天井高を計算。室内は 1 階と 2 階 の天井高を 3 パターン設け、階段や棚、天井をス リット状にすることで、視界が水平と垂直方向に 開けるよう工夫しました。
「なんか、心地いいよね」。
家族の言葉が何より嬉しい
日本文化の詰まった旅館のよう な住処。玄関スペースを贅沢にと り、家族がメインで過ごすダイニ ングを中心に一日が完結するよう、 生活動線を集約。老後は足腰に負 担をかけることなく、最小限のス ペースで暮らすことができる。
また、家族がお互いの存在を感 じつつ思い思いの時間を過ごせる よう、空間同士を「離れ」として独 立。リビングとダイニングキッチ ンの間には中庭テラスを配置し、 プライバシーを保ちつつ陽の移り 変わりや風を感じられるよう工夫 した。熊本県産の無垢材をふんだ んに使ったデザイン性の高い木造 建築ながら、断熱材を効果的に取 り入れた高気密・高断熱仕様で環 境にも配慮。あまりにも独創的 な家に最初は戸惑っていた奥様も、 今では使い勝手が良いと大満足。
「 な ん か 、 心 地 い い よ ね ... 」。 ふ と 呟いた奥様の言葉が、この家の魅 力を物語っている。
「家の顔」といわれる玄関を、広々としたスペースに。格子の造作建具や床には小国杉 を使い、シックにまとめ、まるで料亭を訪れたお客様を出迎えているかのよう
ダイ ニングキッチンの壁を隔ててベッドルームが隣接。ホテルの客室のようにデッキ、リビ ング、洗面所、トイレ、お風呂が1つの空間のように集約され見渡せる
子どもたち の冒険心をくすぐる木製のハシゴは2階へ直結。オブジェの要素を持ちつつ、物干し竿 的な使い道も
2階の和室は、ハシゴをつたって1階ダイニング、屋外の渡り廊下で 子供部屋と繋がる独立空間。気持ちをリセットできる大切な場所
2 階の一部をシンメトリーに設けた空間は、子供の成長と共に可変で きるスペースとなっている。長い作業台は、学習机や家事用にと、多様な 使い方ができる
屋根から突き出したドーマー屋根は、室内に程よい 明りをもたらす
夜のライトアップ、時間や季節ごとに豊かな表情を 表すよろい壁と塗り壁の外観
敷地の中央に設けたデッキスペース は、建物同士そして人と人を繋ぐ場所。バーベキューをしたり子供たちが プールで遊んだりと季節を感じる憩いの場になっている
▶設計のポイント
空間ごとに一つの建物として独立させ、高さの異なる 7 つの屋根で構成。 一軒家ながら、外から見ると、いくつもの建物が密集しているように見せ ました。また、耐震性、省エネ性、気密性を基本設計に、日本家屋のデザ インを取り入れた温故知新の建物としました。
上益城郡益城町T様邸(家族4人)
敷地面積/227.08m²(約 68.78坪)
延床面積/113.62m²(約 34.43坪)
工法/木造軸組工法 設計期間/約12ヶ月
工事期間/約12ヶ月
■プロフィール
1973年生まれ 八代私立八代第一高等学校建設科卒業(現:秀岳館高等学校)
東京・熊本にて建設会社・設計事務所を経て、 2014年一級建築士事務所Zoological gardenを設立
設計監理料/総工事費の10%〜20%程度(要相談・構造計算等別途)
受賞歴/2021年第25回くまもとアートポリス推進賞選賞
ARCHITECT
田尻 貴裕 Takahiro Tajiri
一級建築事務所 Zoologica garden
Zoo:動物園=人々が楽しく集まり環境に優しい空間設計 Logical:合理的・論理的・理にかなった=使う人の思いを 具現化設計 garden:事務所住所=設計場所
【所在地】〒861-2241 上益城郡益城町宮園449-4
【TEL】096-295-6608
【FAX】096-295-6608
【Mail】zoo@jcom.zaq.ne.jp